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$i$ の平方根

$i$ の平方根というのが前節で出て来たけが、これは本当に新しい数なのだろうか? 「新しい数」を導入するのももちろん面白い考え方だけれども、 まず今までの複素数で本当に $i$ の平方根がないのかどうか 確かめるのもとても大事だ。試しに

\begin{displaymath}(a+bi)^2=i \quad (a,b\in \mbox{${\Bbb R}$})
\end{displaymath}

というのを解いてみるとしよう。

\begin{displaymath}a^2-b^2=0,\quad 2ab=1
\end{displaymath}

というのが出て来て、あら不思議、

\begin{displaymath}a+bi=
\frac{\sqrt{2}}{2}
+\frac{\sqrt{2}}{2}i
\text{ または }
a+bi=
-\frac{\sqrt{2}}{2}
-\frac{\sqrt{2}}{2}
\end{displaymath}

と、ちゃんと解けてしまった。だから、実は無理に新しい数を導入する必要はない。

(「新しい数を導入する基準は何なんだ、」あるいは、 「本当に $i$ なんて導入して良かったんだろうか?」という疑問が出そうだ。 既存の「数」に新しい「数」を付け加えてどうなるかを調べることは、例えば 代数学でよく取り扱われることで、 「環や体の拡大の理論」と呼ばれるものがそれにあたる。 拡大(新しい数を付け加えること)ができたとして、 それがとても良い性質を満たすかどうかは、解析学などでも重要なテーマで、 たとえば複素数にたいしては「複素解析学」と呼ばれる美しい理論があって、 複素数導入の動機付けの一つを与えている。)

じつは、もう一つ別のやり方で$i$ の平方根を出すこともできる。

\begin{displaymath}z^4+1=(z^2+\sqrt{2}z+1)(z^2-\sqrt{2}z+1)
\end{displaymath}

と強引に「因数分解」して二次方程式の解の公式を用いる方法だ。 この方法だと《4乗して $-1$ になる数》が出て来るけれども、そのうち 二つは二乗して $-i$ になるので、少し注意が必要だ。

もう一つ計算してみよう。3乗して $1$ になる複素数はどれぐらいあるか ご存知だろうか?

\begin{displaymath}z^3-1=(z-1)(z^2+z+1)
\end{displaymath}

というのを使うと、

\begin{displaymath}z=1
\text{ または }
z=\frac{-1}{2}\pm \frac{\sqrt{3}}{2}i
\end{displaymath}

という答が出て来る。

これらの、《何とか乗して $1$ になる数》のことをよく「一の巾根」 とよぶ。(そのまんまやんけ!)

一の巾根をガウス平面にプロットしてみると、実に面白いことに気づく。

これは「複素数の積が幾何学的にはどのように解釈できるか」という ことから説明できる。面白いから是非試してみてほしい。

上の最後の主張は、いままで関係ないと思っていた三角関数が、 実は巾乗を考える上で大事なことを意味している。 次の節でその点に少し触れよう。


Yoshifumi Tsuchimoto
2000-04-12