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プロローグ:用紙からはみ出して書くこと

私の知っている人で、コード名八百九十三という人(以下仮にエム氏と呼ぶ)が、 新入生向けの数学のセミナーを 開催していたことがありました。 そこで、(詳細は知らないのですが、)$y=x$ のグラフか何かでも書いていたのでしょう。 新人氏は黒板にビヤッとグラフを書きました。

エム氏は不機嫌そうにいいました。

「それでは直線ちゃうやないか。線分や。」

新人氏も血の気が多かったのか、それなら、と 黒板よりはみ出して、演習室の壁、さらには天井にまで線を伸ばしました。

「これでいいですか?」

エム氏もそこまでするとは思わなかったろうから、 新人氏も内心一本とったかと思ったかも知れませんが、 そこは百戦錬磨のエム氏、表情も変えずに、

「それでは半直線や。」

と言ったそうです。翌日演習室の掃除をしに来た人はさぞや びっくりしたことでしょう。

この話は、単なる笑い話かと思っていたのですが、実は数学 の歴史を変えるあるアイディアの話とすごく関係があったのです。



Yoshifumi Tsuchimoto
2000-04-12