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代数学II要約 No.6

第6回目の主題 : PID 上の有限生成加群

定義 6.1   環 $ A$ 上の加群 $ M$ の元 $ m_1,m_2,\dots, m_k$ に対して、 $ A$ -準同型

$\displaystyle \varphi: A^{\oplus k} \ni
\begin{pmatrix}
a_1 \\
a_2 \\
\vdots \\
a_k
\end{pmatrix}\mapsto
\sum_{j=1}^k {a_j. m_j}
$

の核 $ \operatorname{Ker}(\varphi) $ の元のことを $ m_1,m_2,\dots, m_k$関係式と呼び、 その全体のなす加群 $ \operatorname{Ker}(\varphi) $ のことを $ m_1,m_2,\dots, m_k$関係式のなす加群と呼ぶ。

以下では、次のような変換を考える。

変換1.
$ \{m_1,m_2,m_3,\dots,m_k\}$ の順序を入れ換える。
変換2.
$ \{m_1,m_2,m_3,\dots,m_k\}$ の代わりに それを $ \begin{pmatrix}
a & b \\
c & d
\end{pmatrix}\in {\operatorname{GL}}_2(A)
$ で「ひねった」

$\displaystyle \{a. m_1+b.m_2,c.m_1+ d.m_2,m_3,\dots,m_k\}
$

を考える。
変換3.
$ \{m_1,m_2,m_3,\dots,m_k\}$ の代わりに $ m_1$

$\displaystyle m_1'= m_1+ a_2 m_2+ a_3 m_3 + \dots+ a_k m_k
$

に置き換えたもの $ \{m_1', m_2,m_3,\dots, m_k\}$ を考える。

(変換3)は(変換1), (変換2)を有限回組み合わせて得られることが わかるので 以下の議論で必須ではない。

定義 6.2 (この講義だけで通じる記号)   可換 PID $ A$ と、その上の加群 $ M$ が与えられていて、 $ M$$ A$ $ m_1,m_2,\dots, m_k$ で生成されているとする。 $ m_1,m_2,\dots, m_k$ を(変換1), (変換2), (変換3) を 有限回繰り返して得られる $ M$ の元の組 $ (m_1,m_2,\dots,m_k)$ の全体を $ \mathcal S_M$ と書くことにする。

補題 6.3 (変換1)   ,(変換2),(変換3)の形の変換は(同じ形の)逆変換をもつ。 とくに、 $ \mathcal S_M$ の各元 $ \underline{x}=(x_1,x_2,\dots, x_k)$ にたいして、 $ \{x_1,x_2,\dots,x_k\}$$ M$ を生成する。

補題 6.4   $ \underline{x}=\{x_j\}\in \mathcal S_M$ が、関係式

$\displaystyle \sum_j a_j x_j=0
$

を満たしたとする。

$\displaystyle d=\gcd(a_1,a_2,\dots,a_k)
$

とおいて、

% latex2html id marker 1013
$\displaystyle a_j=d a_j' \qquad( a_j \in A, j=1,2,\dots k)
$

と書こう。このとき、

$\displaystyle y_1=\sum_j a_j' x_j
$

を最初の元として持つような $ \mathcal S$ の元 $ y_1,y_2,\dots,y_k$ が存在する。 この $ y_1$ $ d \cdot y_1=0$ を満たすことにも注意しよう。

補題 6.5   $ \underline{x}\in \mathcal S_M$ と、その関係式 $ (a_1,\dots,a_k)$ を全て考える。これらの全ての組み合わせについて、 $ \gcd(a_1,a_2,\dots,a_k)$ を考えた時、それらの中で(整除に関して) 極小なものが存在する。 その一つを以下 $ d_0$ と書こう。このとき、
  1. $ d_0=0$ なら $ M$ は自由加群である。 以下、% latex2html id marker 1042
$ d_0\neq 0$ とする。

  2. ある $ (u_1,u_2,\dots, u_k) \in \mathcal S_M$ が存在して、

    $\displaystyle d_0 \cdot u_1=0
$

    なる関係式が成立する。
  3. $ \underline{u}$ の任意の関係式 $ (a_1,a_2,a_3,\dots, a_k)$ について、 その各成分 $ a_1,a_2,\dots, a_k$ は各々 $ d_0$ で割り切れる。
  4. $ M$$ A u_1$ $ A u_2+\dots+ A u_k$ の直和と同型である。

定理 6.6   可換 PID $ A$ 上の有限生成加群 $ M$ が与えられているとする。 このとき、$ M$ の生成系 $ \underline{m}=\{m_1,m_2,\dots, m_k\}$ にたいして、 $ \underline m$ を(変換1),(変換2),(変換3)を有限回繰り返すことにより、 $ M$ の新しい生成系 $ \underline w$ であって、

$\displaystyle M \cong Aw_1 \oplus A w_2 \oplus \dots A w_k
$

(巡回加群の直和)となるものが存在する。

一つの元で生成される加群を巡回加群と呼ぶのでした。

補題 6.7   任意の環 $ A$ に対して、次のことが言える。
  1. 任意の $ A$ の左イデアル $ J$ にたいして、 $ A/J$ は巡回加群である。
  2. 任意の巡回加群は(1)で述べたようなものと同型である。

命題 6.8 (定理の言い換え)   可換 PID $ A$ 上の任意の有限生成加群 $ M$ は巡回 $ A$ 加群の直和に同型である。 ゆえに、ある $ c_1,c_2,\dots, c_k \in A^k$

$\displaystyle M\cong A/Ac_1 \oplus A/A c_2 \oplus \dots \oplus A/A c_k
$

なる同型が存在する。

(ただの)加群は $ {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ -加群のことと同じであって、 $ {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$$ PID$ であることから、 つぎの(大変有用かつ重要な)系が成り立つ。

系 6.9 (有限生成アーベル群の基本定理)   任意の有限生成アーベル群は巡回群の有限個の直和である。


命題 6.10   可換 PID $ A$ のイデアルの増加列

$\displaystyle I_1 \subset I_2 \subset I_3 \subset I_4 \subset \dots
$

は必ず有限で止まる。すなわち、ある $ N$ があって、

$\displaystyle I_N=I_{N+1}=I_{N+2}=\dots
$

が成り立つ。


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Yoshifumi Tsuchimoto 2016-06-02