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線形代数学概論 A No.2要約

\fbox{今日のテーマ} 抽象的ベクトル空間、ベクトル空間の部分空間。一次独立性

実数直線も、

$\displaystyle W_0=\left\{
t \begin{pmatrix}
1 \\
1
\end{pmatrix}; t\in \mbox{${\mathbb{R}}$}
\right\}
$

も、「同じ形」をしている。 このような2つを同時に扱うのには、成分を見るのではなく、 和と、スカラー倍という道具のみを用いて記述することが 大事になる。例えば、成分がすべて 0 のベクトル (0 ベクトル) は $ \mathbf v + \mathbf v =\mathbf v$ の解と見ることもできる。 そもそも、成分を扱ってばかりいるのではベクトルを研究する意味がない。

定義 2.1 (教科書5.1および定理1.1 )   $ V$$ K$ 上のベクトル空間であるとは、 つぎの性質を満たしているときにいう。
O.
(演算の存在) $ V$ には、和と、スカラー倍 ($ K$ の元による定数倍)が定義されている。
O.
($ V$ は和に関して加法群である。)
  1. $ \forall \mathbf x, \forall \mathbf y, \forall \mathbf z \in V$ にたいし、 $ (\mathbf x + \mathbf y)+\mathbf z= \mathbf x+(\mathbf y+\mathbf z)$ .
  2. $ \exists \mathbf 0 \in V$ があって、 $ \forall x \in V$ にたいし、 % latex2html id marker 977
$ \mathbf x+\mathbf 0=\mathbf x,
\quad \mathbf 0+\mathbf x=\mathbf 0$ がなりたつ。
  3. $ \forall \mathbf x \in V$ に対して、 $ \exists \mathbf y\in V $ が存在して、 % latex2html id marker 983
$ \mathbf x+\mathbf y=\mathbf 0,\quad \mathbf y+\mathbf x=\mathbf 0$ が成り立つ。
  4. $ \forall \mathbf x,\mathbf y\in V$ にたいして $ \mathbf x+\mathbf y=\mathbf y+\mathbf x$ が成り立つ.
O.
(スカラー倍の作用)
  1. $ \forall c_1,c_2 \in K \forall\mathbf x \in V$ $ (c_1 c_2)\mathbf x = c_1.(c_2.\mathbf x)$ .
  2. $ \forall \mathbf x \in V$ $ 1.\mathbf x=\mathbf x$ .
O.
(和とスカラー倍の協調性)
  1. $ \forall c_1,c_2 \in K \forall\mathbf x \in V$ $ (c_1+c_2) \mathbf x=c_1 \mathbf x +c_2\mathbf x$
  2. $ \forall c \in K ,
\forall \mathbf x,\mathbf y\in V$ $ c(\mathbf x+\mathbf y)
=c \mathbf x + c\mathbf y$ .

命題 2.1   ベクトル空間 $ V$ にたいして、
  1. $ V$ の元 $ \mathbf v$ で、 $ \mathbf v + \mathbf v =\mathbf v$ を満たすものがただひとつ存在する。 これが $ V$ のゼロ元(ゼロベクトル)である。
  2. $ V$ の各元 $ \mathbf x$ に対して、 $ 0.\mathbf x =\mathbf 0$ が成り立つ。
  3. $ V$ の元 $ \mathbf x$ に対して、 $ \mathbf x+\mathbf y=\mathbf 0$ をみたす $ \mathbf y$ はただひとつである。 これを $ \mathbf x$逆ベクトルとよぶ。

定義 2.2   ベクトル空間 $ V$ の部分集合で、(同じ和とスカラー倍に関して) ベクトル空間であるようなものを、$ V$部分ベクトル空間と呼ぶ。

上述の $ W_0$ $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^2$ の部分ベクトル空間である。

定義 2.3   $ V$ のベクトル $ \mathbf v_1,\mathbf v_2,\mathbf v_3,\dots, \mathbf v_t$一次従属であるとは、 ある % latex2html id marker 1059
$ (c_1,c_2,\dots c_t)\neq (0,0,\dots,0)$ が存在して、

$\displaystyle c_1 \mathbf v_1 +c_2 \mathbf v_2 +\dots c_t \mathbf v_t=0
$

を満たすときにいう。 $ \mathbf v_1,\mathbf v_2,\dots, \mathbf v_t$ が一次従属でない場合には、 一次独立であると呼ばれる。

要するに、一次従属であるとは、与えられたベクトルの間に 関係式が存在することである。 一次独立かそうでない(一次従属)か、 は和とスカラー倍のみを用いて記述されており、 成分の値については直接は言及していない。いかにも線形代数的な概念である。

例 2.1 (線形従属なベクトルの例)  
  1. $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^4$ の元を

    $\displaystyle \mathbf v_1=
\begin{pmatrix}
1 \\
2 \\
3 \\
4
\end{pmatrix},\m...
...6
\end{pmatrix},
\mathbf v_3=
\begin{pmatrix}
4 \\
6 \\
8\\
10
\end{pmatrix}$

    で定めると、 $ \mathbf v_1,\mathbf v_2,\mathbf v_3$ は一次従属である。 $ \mathbf v_1+\mathbf v_2=\mathbf v_3$ であるからである。

  2. $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^3$ の元を

    $\displaystyle \mathbf v_1=
\begin{pmatrix}
1 \\
2 \\
3 \\
\end{pmatrix},\mat...
... \\
\end{pmatrix},
\mathbf v_3=
\begin{pmatrix}
7 \\
8 \\
9\\
\end{pmatrix}$

    で定めると、 $ \mathbf v_1,\mathbf v_2,\mathbf v_3$ は一次従属である。 $ \mathbf v_1+6 \mathbf v_2=\mathbf v_3$ であるからである。

  3. $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^2$ の元を

    $\displaystyle \mathbf v_1=
\begin{pmatrix}
1 \\
2 \\
\end{pmatrix},\mathbf v_...
...\
10 \\
\end{pmatrix},
\mathbf v_3=
\begin{pmatrix}
1 \\
1 \\
\end{pmatrix}$

    で定めると、 $ \mathbf v_1,\mathbf v_2,\mathbf v_3$ は一次従属である。 $ 5 \mathbf v_1=\mathbf v_2$ であるからである。

上のように、具体的な数ベクトルが一次従属であるか否かを調べるときには、 成分に言及する必要がある。 $ \mathbf v_1,\mathbf v_2,\mathbf v_3$ が一次従属であるという事は、 最後のベクトル $ \mathbf v_3$ $ \mathbf v_1,\mathbf v_2$ スカラー倍の和(線形結合)を用いて 書けるということにかなり近いが、最後の例のように例外も生じる。 そこで定義では最初から $ \mathbf v_1,\mathbf v_2,\dots \mathbf v_t$ に関して 対称な形で述べてあるのである。上の(2)で言えば、 $ 1.\mathbf v_1+6.\mathbf v_2-1.\mathbf v_3=0$ という調子である。

例 2.2  

$\displaystyle \mathbf v_1=
\begin{pmatrix}
1 \\
2 \\
\end{pmatrix},\mathbf v_2=
\begin{pmatrix}
5 \\
1 \\
\end{pmatrix}$

とおくと、 $ \mathbf v_1,\mathbf v_2$ は一次独立である。 実際、

$\displaystyle c_1 \mathbf v_1 +c_2 \mathbf v_2 =\mathbf 0
$

とすると、

% latex2html id marker 1118
$\displaystyle c_1 + 5 c_2 =0, \quad 2 c_1 + c_2=0
$

で、これを解くと $ c_1=0,c_2=0$ を得るからである。

線形独立性、線形従属性を判定する場合にはうえのように一次方程式に 帰着させる。下の問題も参照のこと。

※レポート問題

問題 2.1  

$\displaystyle \mathbf v_1=
\begin{pmatrix}
1 \\
2 \\
3
\end{pmatrix},\mathbf ...
...
6
\end{pmatrix},
\mathbf v_3=
\begin{pmatrix}
1 \\
1 \\
1 \\
\end{pmatrix}$

とおくと、 $ \mathbf v_1,\mathbf v_2,\mathbf v_3$ は一次独立だろうか、 それとも従属だろうか。 理由を挙げて答えなさい。


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2012-11-16